研究テーマ

2020年よりトロント大学院の社会福祉学部博士課程に所属しながら、日系カナディアン、ミックス/ダブル/ハーフ、移民、難民、LGBTQ+コミュニティメンバーとのサイコセラピー(心理療法)に取り組んでいます。

ミックス/ダブル/ハーフ アイデンティティ

人種・民族・国籍・文化が混じり合う家族・環境で育つ子どもたち―“ミックス”の数は世界中で増え続けています。複数のアイデンティティルーツをあわせもつ彼らは、文化の架け橋として期待される一方、医療・福祉・心理・教育研究において『モノレイシズム』(一つの人種・文化・国籍アイデンティティのみを持つ人によるミックスに対する無理解や差別)の問題も認識され、自己肯定感や社会への所属感の低さ、周囲からの理解の少なさがミックスのメンタルヘルス、学校生活そして社会参加全般に与える影響が懸念されています。
日本においては、ハーフ・ダブル・ミックス研究と外国につながる子ども達の研究が近年注目を集め、様々な書籍やニュースなどから、一般の認識においても“両親共が日本人の子ども以外の存在”が当たり前になりつつあります。その一方、ミックスの子ども達に日常かかわる大人たち―教育や福祉医療関係者等―がミックスであるケースは限られており、日本のミックスは圧倒的多数の日本“のみ“に人種的ルーツを持つ人々に囲まれて生きているケースが未だ一般的です。
一方カナダにおいては、人種国籍文化が混じり合う人々の共生が当たり前となりつつも、根強く残る人種差別が、様々な場面でミックスのアイデンティティ形成や人生経験に影響を及ぼしています。
諸外国のミックス研究は「白人×黒人」についての言説が歴史的に主流でしたが(アメリカではアジア系ミックス研究も増加)、ジャパニーズミックス特有の状況についても日本国内外の研究者によって少しずつ明らかにされつつあります(下地ローレンス吉孝・Sayaka Osanami Törngren等)。
日本とのミックス/ダブル/ハーフ アイデンティティを持つ人々固有の状況やニーズに注目し、彼らとその家族、関わる教育・福祉・医療関係者等への支援を研究しています。

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初の世界規模「日系人」意識調査 新たな日系人像が明らかに(外部サイトへ移動します)

反抑圧的ソーシャルワーク(Anti-oppressive Social Work)

反抑圧ソーシャルワーク(AOP)では、アイデンティティとは“個人ごと (personal)”でありながら極めて“社会ごと(political)“な事象であり、ひとりひとりの人生体験は社会的(political)な影響から無関係であることはあり得ない、と理解します。なぜなら、世界は平等な場所ではなく、「Who I am? (私は誰?)」を構成する要素である様々なアイデンティティ(ジェンダー/セクシュアリティ・能力や障害・人種や国籍・宗教・収入や世帯状況等)はより望ましいもの(社会の主流に近いもの)を筆頭に順位づけされているからです。様々な生きづらさを「社会の不均等性に起因するゆがみ」と理解・介入する社会正義に根差したソーシャル・アプローチの理念の一つとしてAOPを研究しています。

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脱「いい子」のソーシャルワーク――反抑圧的な実践と理論(外部サイトへ移動します)

インターセクショナリティ(Intersectionality)

インターセクショナリティは、人を一つのアイデンティティ・カテゴリーに当てはめずに、複雑なアイデンティティの集合体として認識し、その人のホリスティックな人格や人生経験を全体観的に理解するための概念です。
たとえば、ソーシャルワークにおける「利用者と支援者」の関係を、インターセクショナリティのレンズで見てみると、そこに映し出される関係性は、男性・女性・ノンバイナリー、異性愛者・同性愛者・アセクシャル、高齢者と若者、障害のある者と健常と呼ばれる者……多種多様なものであることが見えてきます。
他者を理解するためのツールにとどまらず、福祉やその他様々な場面と人間関係において、人と人の間で交差する複雑なアイデンティティが、どのように力関係・上下関係をつくりだすのかを可視化、分析し、それらからの解放を目指す概念としてインターセクショナリティについて研究しています。

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『季刊 福祉労働172号』〈特集1〉インターセクショナリティと批判的実践(外部サイトへ移動します)

批判的多文化カウンセリング

批判的多文化カウンセリングは、人種、民族、文化、宗教、そしてジェンダーやセクシュアリティの多様性を理解し、交差するアイデンティティがどのような人生体験や生きづらさ生み出すか、という観点からクライエントの抱える課題の改善を目指すセラピー・カウンセリングアプローチです。また、セラピスト・カウンセラー自身のアイデンティティや社会的立ち位置(positionality)、有利性や特権(privilege)がクライエントとの関係性に及ぼす影響を(なくすことはできなくとも)最小限に抑える行動や在り方を示す指針でもあります。いくつものアイデンティティの集合体としてのクライエントを総合的に理解、サポートすることを可能にするための批判的多文化カウンセリングを研究しています。